IL RICOTTARO

IL RICOTTARO イルリコッターロ(IL RICOTTARO)
岡山県蒜山高原の森の中にある小さなチー

岡山県蒜山高原でチーズ工房を営んでいます。お隣の牧場のミルクを分けていただき平日に製造。
毎週木曜日はリコッタ、チーズを発送しています。

店舗は現在お休みしています。

真庭市内では蒜山ワイナリーさん、御前酒さん、アグリガーデンさんなどでお買い求めいただけます。

【悲報】調子に乗って「地球を掘る」と言い出した男、さっそく自然の洗礼を受ける話④(前回までのあらすじ:16年前に掘った「湿った防空壕」が、育った木々のおかげで奇跡の天然クーラーに進化していることを発見。職人16年目、男は意気揚々と地下熟成庫...
21/08/2026

【悲報】調子に乗って「地球を掘る」と言い出した男、さっそく自然の洗礼を受ける話④

(前回までのあらすじ:16年前に掘った「湿った防空壕」が、育った木々のおかげで奇跡の天然クーラーに進化していることを発見。職人16年目、男は意気揚々と地下熟成庫リベンジを宣言しました。)

……さて。
「地球の力を借りて、理想の熟成庫を復活させるぞ!」
と息巻いたのはいいものの、着工初日にして致命的な現実に直面しました。

私、本業のチーズ作りで週に1〜2時間しか現場作業ができません。

当たり前です。チーズは待ってくれません。
このままでは熟成庫ができる前に、私自身が先に熟成(老化)してしまいます。

そこで私は、迷わず助っ人を要請しました。
何でも屋の池田さんと、我が父です。

ほぼ丸投げ!とも言える体制を整え、まずは16年の歳月で草木に覆われていたコンクリート室を片付けて清掃する作業からスタートしてもらいました。

ここまでは順調でした。
しかし、本当の戦いは「水洗い」の後に待っていたのです。

作業のために内壁を水洗いしたため、次はしっかり「乾燥」させる必要があります。
……のはずが。

部屋の中が天然の冷蔵庫のように冷えているため、人が出入りして外気が入り込むたびに、
壁という壁が、猛烈に結露する。
乾かすどころの話ではありません。
雑巾で拭きまくっても、除湿機を全力稼働させても、外気との温度差で無限に水滴が湧き出してくるのです。

「あかん……物理の法則には勝てん……!」
この強烈な湿度を前にして、当初予定していた「床に木材を張る計画」は一瞬でボツになりました。即座にカビの温床になる未来しか見えません。

そこで急遽、設計変更。
父の倉庫をひっくり返し、奇跡的に転がっていた頑丈なゴム製部材を床材として再利用することにしました。

しかし、試練はこれだけでは終わりませんでした。
最大の敵は、地下の湿気だけではなく「世界情勢」だったのです。

中東情勢の緊迫による原料不足の余波が、なぜか日本の山奥にある私のDIY熟成庫計画を直撃しました。

必要な建築資材が、どこを見ても売り切れ。
夜なべをして、紙とペンを走らせて「これならいける!」と渾身の施工プランを練り上げる。

いざ買おうとすると「在庫なし」か「ごく少量(全然足りない)」。

プラン崩壊。別の材料で一から再設計。

夜なべして図面を引き直す。

また売り切れ。
この無限ループです。

昼はチーズと格闘し、夜はスマホの画面と紙とペンを睨みつけながらため息をつく日々。
数週間にわたり、あちこちの業者や店舗に問い合わせをかけ続け、泥臭く資材をかき集めました。
(※代替品を探すたびに予算が想定を軽々と超えていった気もしますが、総額いくらになったのかは、この際考えないことに、、します。)

かくして、父の倉庫から発掘したゴムマット、
池田さんと父の奮闘、
そして夜なべと執念で手に入れた貴重な資材たち——

ようやく、役者は揃いました。

次回、ついに本格施工編となります。多分!

現場からは以上です!

一枚目は熟成庫が出来た暁には仕込もうと考えている真庭のビールで洗った熟成チーズ

二枚目は洗った後の熟成庫

【朗報】エアコンの構造に16年気づかなかった男、調子に乗って「地球を掘る」と言い出す話③(前回までのあらすじ:換気扇を取り付けたら16年悩んだ熟成庫の空気滞留が一発解決。熟成チーズとホエイとリコッタが一本の線で繋がり、「機は熟した!」と叫び...
29/07/2026

【朗報】エアコンの構造に16年気づかなかった男、調子に乗って「地球を掘る」と言い出す話③

(前回までのあらすじ:換気扇を取り付けたら16年悩んだ熟成庫の空気滞留が一発解決。熟成チーズとホエイとリコッタが一本の線で繋がり、「機は熟した!」と叫びました。)

……さて。

16年越しにようやく「換気」という文明の理屈を理解し、既存の熟成庫は理想的な環境になりました。

これで満足して終われば良かったのです。

本当に。

しかし、職人という生き物は困ったものです。

一つ壁を越えると、すぐ次の壁を登りたくなる。

私はふと思ってしまいました。

「……待てよ。自然の土の中なら、もっと理想的な熟成環境が作れるんちゃうか?」

はい、出ました。

つい先日までエアコンの仕組みすら勘違いしていた男が、今度は地球そのものを相手にDIYを始めようとしています。

自分でも学習能力を疑っています。

実は私、チーズ職人として独立した16年前にも、一度だけ地下熟成庫に挑戦したことがあります。

当時の知識は、ほぼゼロ。

頭の中にあった設計図は、たったこれだけでした。

「土の中にコンクリートの箱を埋めたら、勝手に冷えるやろ。」

今なら笑えます。

当時は本気でした。

意気揚々とスコップを握りしめ、いざ地球を掘り始めた私。

……が。

開始わずか数分で、絶望して力尽きました。

「あ、これ人間が手で掘るやつちゃうわ。」

秒で現実を悟った私は、すぐさま大工さんにSOSを要請。
重機でガッツリと豪快に穴を掘ってもらい、コンクリートを流し込んでもらって、なんとか半地下熟成庫が完成しました。

……いや。

完成したのは、

「重機を使って作った、ちょっと湿った防空壕」でした。😭

夏は普通に暑い。

壁からは水滴がポタポタ。

外側の地面には直射日光がカンカンに当たって、地熱で中までアッツアツ。

チーズどころか、人間でも長居したくありません。

「自然をなめるな。」

そう言われた気がして、その場所は静かに封印しました。

……ところが。

先日、16年ぶりにその場所を訪れた私は、思わず立ち止まりました。

「あれ……?」

16年前はカンカン照りだった地表や斜面が、いつの間にか木々に覆われていたのです。

枝葉が天然の日よけのように広がり、地面をすっぽり包み込んで直射日光を遮っている。

試しに温度計を置いてみると、

外は36℃。

中は20℃。

「……嘘やろ。」

私が勘違いを繰り返し、遠回りを続けていた16年の間に、

自然は文句ひとつ言わず、勝手に理想の木陰を育てて地面を冷やしてくれていました。

時間が、この場所を完成させていたのです。

その瞬間、また頭の中で何かがカチッと音を立てました。

16年前の私は、知識も技術もなく、勢いだけで重機を頼んでいました。

頼れるのは、大工さんのパワーだけ。

でも今の私は違います。

温度管理の知識もある。

断熱の考え方も知っている。

湿気対策も、衛生管理も学びました。

16年前の失敗(と即力尽きた反省)と、

16年かけて育った自然と、

16年分の経験。

全部を、この場所に注ぎ込める。

つまり。

あの黒歴史だった防空壕は、

「自然」と「人の知恵」が一緒になった地下熟成庫として、生まれ変われるかもしれない。

16年前の自分には、絶対に作れなかった場所です。

だから決めました。

職人16年目。

DIY地下熟成庫、リベンジします。🔥
(今回はスコップで力尽きないよう、しっかり計画を立てて挑みます笑)

16年前は、重機で穴を掘って終わりました。

さて今回は、チーズが眠る理想の場所まで辿り着けるでしょうか。

進捗はまたここでご報告します。

どうか、生温かく見守っていただけるとうれしいです(笑)。

(※もちろん現在販売中の熟成チーズは、既存の熟成庫で安全に管理・熟成していますのでご安心ください🧀)

現場からは以上です!

#イルリコッターロ #チーズ職人 #熟成チーズ #リコッタチーズ #ピーノ

【朗報】過去に「この世の終わり」みたいな鬱投稿を書いた男、16年越しに衝撃の真実を知り膝から崩れ落ち「機は熟した!」と叫んだ話②「で、なんでそんなアホが16年も妥協なく熟成チーズを作り続けてたの?」という疑問に全てお答えします前回、「プレハ...
27/07/2026

【朗報】過去に「この世の終わり」みたいな鬱投稿を書いた男、16年越しに衝撃の真実を知り膝から崩れ落ち「機は熟した!」と叫んだ話②

「で、なんでそんなアホが16年も妥協なく熟成チーズを作り続けてたの?」という疑問に全てお答えします

前回、「プレハブ冷蔵庫は16年間まったく換気していなかった」という、職人とは思えない勘違いを大公開したところ、たくさんの反響をいただきました😂

……さて。

ここで勘のいい皆さまなら、ひとつ疑問が浮かんでいるはずです。

「いや、そんな環境なら普通は途中で熟成チーズやめるやろ。」

その通りです。

普通ならやめます。

手もかかる。時間もかかる。決して効率が良い仕事とは言えません。

でも、私はやめませんでした。

理由は、ひとつだけ。

「最高のリコッタを作りたかったから。」

リコッタは、チーズを作ったあとに残る「ホエイ(乳清)」から生まれます。

つまり私にとって熟成チーズ作りは、

「妥協なき熟成チーズを作り上げ、そこから極上のホエイを生み出すための、絶対に譲れない大切なプロセス」でした。

……我ながら、だいぶこだわりが強すぎる遠回りです。

それでも16年間、一切手を抜かず作り続けました。

そして今シーズン、メイン原料としてホエイを提供していただいている取引先の都合で、ホエイを仕入れるのがちょっと難しくなっていきていたのです。。

「さて、どうする。」

そう思った次の瞬間でした。

1️⃣ 換気問題が解決し、理想的な環境になった熟成庫。

2️⃣ そこで熟成される、自慢の熟成チーズ。

3️⃣ そこから生まれる、自分だけの最高のホエイ。

4️⃣ そして、そのホエイから作る極上のリコッタ。

……

「あれ?」

「もしかして。」

「完全無欠の自給自足サイクルが、自分の工房だけで完結するやん。」

しかも。

16年向き合い続けてきた「ピーノ」「カチョカヴァッロ」が、環境改善も合わさって今、過去最高においしくなっている。

そこで頭の中で、ずっとバラバラだったピースが一気にハマりました。

カチッ。

「……。」

「……。」

機 は 熟 し た ーーーーーー!!!🌋

あの瞬間は、工房で本当に叫びました(笑)。

リコッタを極めるための「最高の相棒」として磨き続けてきた熟成チーズが、16年の月日を経て、メインキャストとして完全に覚醒した瞬間です。

思い返せば、この16年は勘違いばかりです。

換気も勘違い。

経営も遠回り。

それでも、積み重ねた時間と技術だけは裏切りませんでした。

だから今、自信を持って送り出せます。

「ピーノ」も「カチョカヴァッロ」も、そしてそこから生まれる「リコッタ」も。

今がいちばんおいしいです。

16年分の失敗と、職人の意地と、ほんの少しの成長が詰まったチーズたち。

もしよければ、その物語ごと味わってみてください。🧀✨

(※オンラインショップはプロフィールのリンクから🛒)

現場からは以上です!

#イルリコッターロ #チーズ #熟成チーズ #リコッタ #ピーノ

【朗報】過去に「この世の終わり」みたいな鬱投稿を書いた男、16年越しに衝撃の真実を知り膝から崩れ落ち「機は熟した!」と叫んだ話①みなさま、覚えていらっしゃるでしょうか。昔このアカウントで私が、「熟成室の匂いが取れません……もうダメかもしれま...
26/07/2026

【朗報】過去に「この世の終わり」みたいな鬱投稿を書いた男、16年越しに衝撃の真実を知り膝から崩れ落ち「機は熟した!」と叫んだ話①

みなさま、覚えていらっしゃるでしょうか。
昔このアカウントで私が、
「熟成室の匂いが取れません……もうダメかもしれません……」
と、打ち切り寸前の漫画の主人公みたいな暗闇の投稿をしていたことを。

あの節は、読者のみなさまを「職人病んでる…?」と不安のどん底に突き落としてしまい、本当に申し訳ありませんでした!😭

長年私を苦しめ続けた、あの「熟成庫の空気滞留問題」。

ついに解決いたしましたーーーーー!!🎉

……そして原因があまりにもアホすぎて膝から崩れ落ちたので、ここに涙の報告をいたします。

キーワードは、これです。

「エアコンって外の空気入れてるんちゃうの?」

チーズを熟成させるプレハブ冷蔵庫には、外に大きな室外機が付いています。
太いパイプで壁をぶち抜いて繋がっていて、中に入ると冷風がゴーゴー吹き荒れている。

私は16年間、ピュアっピュアな瞳でこう信じ切っていました。

«「うわぁ〜! 外の新鮮な空気をぐんぐん吸い込んで、キンキンに冷やして中に送ってくれてるんだなぁ!」»

違いました。全っっ然違いました。

プレハブ冷蔵庫のエアコンは、「室内の空気を吸って、冷やして、また室内へ吐き出しているだけ」

つまり、換気機能は1ミリもついていません。

私「……え、換気は?」

プレハブ「してへんで。」

私「熱捨ててるだけやで。」

私「……。」

プレハブ「匂いの換気係ではありません。」

いや、そりゃ空気こもったまま循環するだけやろガイーーーーーーー!!😂

16年間、本気でこのトラップにハマっていました。
職人歴16年。プレハブ冷蔵庫歴16年。
勘違い歴も、堂々の16年。

つまり私は16年間、「熟成庫の濃密な匂いと空気をひたすらキンキンに冷やしながら爆風で部屋中に循環させ続ける」という狂気のルーティンをドヤ顔で繰り返していたのです。

バカ!私のバカ!

そして先日、壁に小さな換気扇を取り付けたところ……空気のこもり、一発で解決。

16年。暗闇の16年ですよ。

あの日の鬱投稿を書いた自分にタイムマシンで会えるなら、「おい。原因、お前やで。」と、優しく肩をポンと叩いて教えてあげたい。

でも、この壮大な遠回りは無駄ではありませんでした。(と、思いたい!)

この16年、半ば意地のように泥臭く作り続けてきた熟成チーズ「ピーノ」や「カチョカヴァッロ」が、この環境改善を経て、いよいよ本領発揮!
自慢の旨味がぐっと引き立つ味になってきたからです。

失敗も勘違いも全部抱えて、16年目にしてようやくスタートライン。

次はなんと、昔大失敗した「DIY半地下熟成庫」にもう一度挑戦します🔥
(そしてこの話には、実はまだ続きがあります。次の投稿で、なぜ私が16年も妥協なく熟成チーズを作り続けてきたのか、その理由をお話しします)

昨年までは絶望していた熟成庫。今はこうして笑い話にできるようになりました。

そんな16年のドラマ(と爆爆爆笑の勘違い)を経て進化した熟成チーズたち。もし興味があれば、ぜひ一度味わってみてください🧀✨
(※オンラインショップはプロフィールのリンクから🛒)

現場からは以上です!

#イルリコッターロ #チーズ職人 #熟成チーズ #リコッタフレスカ #ピーノ

※入り切らなかったので続きです。🧪━━━━━━━━━━━━━━▼深夜の工房は、大人の科学実験室━━━━━━━━━━━━━━━「もっとチーズとしての輪郭を尖らせたい!」「熱々のソースに負けないよう、水分量をコントロールしてバランスを!」「チー...
18/07/2026

※入り切らなかったので続きです。

🧪━━━━━━━━━━━━━━
▼深夜の工房は、大人の科学実験室
━━━━━━━━━━━━━━━

「もっとチーズとしての輪郭を尖らせたい!」
「熱々のソースに負けないよう、水分量をコントロールしてバランスを!」
「チーズ側にほんの少しだけ塩気の下味があっても面白いかも!」

小野シェフのアイデアを受け、職人のギアが狂ったように上がります。
肉のパンチに負けない「食感の芯」を残すため、チーズの発酵度合いを秒単位で見極め、狙った瞬間に「即塩漬け・即冷却」を敢行する。

ミルクのピュアさを100%保ったまま、熱を加えても崩れすぎない絶妙な保水性と弾力を生み出す――。今この瞬間も、皆さんにお届けする100点の一皿を全力で作る裏側で、深夜の工房はマッドサイエンティストの実験室と化しています。

肉のパンチに濃厚さで張り合うのをやめて、ミルクの純粋さでお肉のポテンシャルを限界突破させる。王道の概念をひっくり返す、おそらく日本でここだけの「ジャージープリモサーレ・ハンバーグ」。

まるでガラパゴス諸島のように。この一皿もまた、真庭という孤高で豊かな環境の中で、誰にも真似できない独自の進化を爆走しています。

🌱━━━━━━━━━━━━━━
▼プリモサーレは生きている
━━━━━━━━━━━━━━━

今、アグリガーデンで多くの方に喜んでいただいている「ソースと溶け合う奇跡のフォンデュ食感」は、今この瞬間しか出会えない、職人が誇る洗練された姿です。

そして遠くない未来、ここに「ムチッとした弾力・とろけるコク・伸びる余韻が同時に層になる新食感」が加わった、次なるアップデートバージョンが姿を現すでしょう。

このハンバーグは、その時、その瞬間の職人たちの情熱がそのまま形になる、生き物みたいな一皿です。

まだ出会っていない美味が、この世界にあるとしたら。
この、真庭でしか起こりえない愛すべきガラパゴス的進化の軌跡を、ぜひ一緒に目撃しに(そしてお腹を満たしに)来てください。

#真庭アグリガーデン #イルリコッターロ #プリモサーレ #ジャージー牛 #チーズハンバーグ 真庭グルメ 蒜山ジャージー クラフトチーズ 発酵 職人のこだわり ガラパゴス的進化

「味、うっす!!!!」から始まった、真庭発・チーズハンバーグ"ガラパゴス的進化論"​ちょっと聞いてください。今、真庭の食卓で、大人たちが大真面目に「愛すべき大事件」を起こしています。​日本人は、ハンバーグとチーズが出会った瞬間、DNAレベル...
18/07/2026

「味、うっす!!!!」から始まった、真庭発・チーズハンバーグ"ガラパゴス的進化論"

​ちょっと聞いてください。

今、真庭の食卓で、大人たちが大真面目に「愛すべき大事件」を起こしています。

​日本人は、ハンバーグとチーズが出会った瞬間、DNAレベルで「濃厚民族」と化してしまいます。

​とろ〜り、じゅわ〜っ、旨味どーん!

異論は認めない。私も喜んでその濃厚民族の最前線に立つ男です。

​そんな濃厚さ至上主義の聖地に、私は数日前、あまりにも無防備な新入りを持ち込みました。

​熟成期間ほぼゼロ。

生まれたての瑞々しさを100%宿した赤ちゃんチーズ「プリモサーレ」です。

​事の発端は「味、うっす!!!!」

​十数年前、シチリアの小さな工房で初めてこのチーズを口にした時、私は真顔で、心の中で叫びました。

​「味、うっす!!!!」

​濃厚なコクもなければ、ガツンとくる塩気もない。

手のひらに乗った「白い湯気」をそのまま食べているかのような、あまりに儚い存在。

​ぶっちゃけ、当時の私にはこのチーズの良さが1ミリもわかりませんでした。

​なのに数日後、なぜか私の胃袋と脳が、無性にあの味を探して暴れ出している。

そこでようやく、天を仰いで気づいたんです。

​このチーズ、自分が主役になる気が1ミクロンもない。

むしろ相手の旨味を200%引き立てる、天才的な「名脇役」だったのだと。

​熟成というお化粧を一切していないからこそ、牛や羊たちがのびのび暮らしていた記憶が、ミルクのピュアな甘みとしてそのまま伝わってくる。

​言うなれば、職人の技がダイレクトに試される「水蕎麦」のような凄みです。

​日本に帰ってからも、あの衝撃はずっと頭から離れませんでした。

だったら、蒜山の豊かな自然の中でのびのび育ったジャージー牛のミルク(本場は羊乳ですが)で、あの感動をもう一度、自分の手で作れないだろうか。

​そうして生まれたのが、今回のプリモサーレです。

​「この引き算の美学を、あえて真逆の王道にぶつけたらどうなるんだ?」

​気がつけば私は、真庭アグリガーデンの小野シェフの元へ走り、直談判していました。

​【真庭アグリガーデンへの突撃直談判】

​「シェフ、このハンバーグに、生まれたてのプリモサーレを正面からタイマン張らせてみたいんです」

​いわば「百戦錬磨のデミグラスソース」vs「生まれたてのピュアなルーキー」という、前代未聞の異種格闘技戦。

​勝つか負けるかではなく、「この二つの個性が同じリングに立ったら、一体どんな景色が見られるのか」を、ただ目撃したかったのです。

​バクバクと心臓を鳴らす私に、小野シェフはニカッと眩しい笑顔で言いました。

​「お任せください。僕が、絶対に美味しいものにしますから」

​プロフェッショナルの圧倒的な器の大きさに、しびれて膝から崩れ落ちそうになりました。

​濃厚さと爽快さが同居する「ノーサイドの抱擁」

​現在、アグリガーデンで実際に提供されているその一皿を、私も一人の客として、お腹を空かせて食べに行きました。

​運ばれてきた瞬間、あまりの光景に二度見しました。

​結論から言いましょう。

リングの上で、二人は殴り合うどころか、出会った瞬間にがっちり熱い抱擁を交わしていました。

​小野シェフの魔法によって、プリモサーレはデミグラスソースの熱烈なアプローチを正面から受け止め、とろっとろに溶け合っていたのです。

​お肉の力強い旨味と、フレッシュなミルクのコクが完全に一体化したその味わいは、まさに「極上のチーズフォンデュ会場」。

​しかも、ただ濃厚なだけじゃないんです。

プリモサーレが持つ天然の乳酸由来の爽やかな酸味が、後味を驚くほど軽やかに締めくくる。

​濃厚なのに、爽快。

「デミグラスソースにサワークリームを添えた極上のボルシチ」を一口食べた時のような、深く、かつ鮮烈なキレ味が脳を直撃します。

​この完璧なソースの中に、蒜山ジャージー牛の肉汁溢れるハンバーグが溺れているのです。

​召し上がったお客さまが皆、満面の笑みを浮かべていると聞き、正直、目頭が熱くなりました。

すでにこの時点で、料理として文句なしの100点満点、大成功です。

​……普通なら、ここでエンドロールが流れてハッピーエンドです。

なのに、職人二人のブレーキが綺麗に壊れてしまいました。

​「100点の満足」の先にある、120点の景色

​ハンバーグをモグモグと噛み締めながら、ふとシェフと目が合いました。

​「シェフ、この一体感、もの凄く美味しいですね」

​「はい、最高です。……でも、もし」

​「……もし?」

​「もう少しだけ、あの生まれたての食感が顔を出してくれたら。噛んだ瞬間にムチッと伸びるような存在感が加わったら……市販のチーズじゃ絶対に出せない味わいになる気がするんです」

​その瞬間、二人の脳内に同時に稲妻が走りました。

​今の一皿が決して未完成なわけじゃない。すでに100点なんです。

でも、100点を見たからこそ、私たちは気づけば「120点の景色」を探しにアクセルを踏み込んでいた。

​これだ

夜な夜なチーズラベルを描き下ろし中。モッツァレラが大きくて手に取りにくいという意見をお聞きし、一口サイズのモッツァレラボッコンチーニを作ります。40gふたつ入り。試食。トマトを切って塩、オレガノ、オリーブオイルでマリネモッツァレラを横に添え...
05/07/2026

夜な夜なチーズラベルを描き下ろし中。

モッツァレラが大きくて手に取りにくいという意見をお聞きし、一口サイズのモッツァレラ

ボッコンチーニを作ります。

40gふたつ入り。

試食。

トマトを切って塩、オレガノ、オリーブオイルでマリネ
モッツァレラを横に添えるだけで美味しい。

【桃の迷宮と、さくらんぼの逆襲】​2026年の幕開け、僕は完全にどうかしていた。首から「今年は1から全てを作り直すのだ!」という血書のような看板をぶら下げ、全財産を一点賭けするギャンブラーの目で大声を上げていた。​それなりのキャリアを積んで...
04/07/2026

【桃の迷宮と、さくらんぼの逆襲】

​2026年の幕開け、僕は完全にどうかしていた。

首から「今年は1から全てを作り直すのだ!」という血書のような看板をぶら下げ、全財産を一点賭けするギャンブラーの目で大声を上げていた。

​それなりのキャリアを積んできた自負?そんなものは蒜山(ひるぜん)の高原の風に投げ捨てて、ゼロからの再構築。それから半年。気づけば暦は7月である。あの時の僕の襟首を掴んで「おいやめろ、そこは底なし沼だ」と羽交い締めにしたい。
皆様、あの壮大な大言壮語が一体どうなったのか、血涙と共にご報告せねばなるまい。

​結論から言うと、この半年間、僕は完全に「モッツァレラという名のサイコパス」に振り回され、沼の底で泡を吹いていた。

​プロヴォレッタに関しては、過去に散々苦しめられたものの、ようやく発酵の段階で「これ、これだよ!」という良い味わいが出てきて、手応えを掴みつつあった。だが、本当に僕をボコボコに苦しめていたのは、モッツァレラの方だったのだ。

​年の初め、僕は工房で不審な奇声を発していた。新しく導入したチーズの「種(スターターの菌たち)」から、信じられないほど鮮烈な「桃の香り」が立ち上ったのだ。
「勝った!第3部完!」とガッツポーズをしたのも束の間、この新種の菌たちが、とんでもない「極悪じゃじゃ馬メンヘラ集団」だった。

​とにかく酸を出す。隙あらば爆速で酸を出す。人間の言うことなんて1ミリも聞かない。「食感のコントロール?知るかよ!」と言わんばかりに暴れ狂う。

慌てて方向性を変え、前回のホエイ(乳清)を次へと継いでいく伝統的な「老舗の秘伝のタレ方式」に切り替えた。すると今度は、すん……と心を閉ざしてしまった。

美味しい。確かに美味しい。けれど、あの時の「ハッとするような桃の香り」はどこへやら、もや〜っとした霧の中で「普通に濃い味モッツァレラですけど、何か?」みたいな顔をしている。違う、僕が欲しいのはお前のそののっぺりした微笑みじゃない……!

​そこへ世知辛い現実の往復ビンタである。諸経費の高騰で値上げを断行したタイミングと重なり、注文の数は目に見えて減っていた。売れない、香らない、菌の気持ちがわからない。僕の心は完全にシャッターを閉め、バリケードを築いていた。

​そんな時、一通の通知が届いた。「全国チーズ鑑評会2026」の結果発表だ。今回は誰かと戦うためじゃない。「ねえ、僕のチーズ、世界の基準で見たらどうなの!?」という、己のクオリティを知るための世界標準絶対評価。

恐る恐る封筒の口を歪に切り取った。
そして数字を五度見した。

​プロポレッタ:18点(金賞相当)

​リコッタフレスカ:17点

​ジャージーモッツァレラ:14点

​全品、高品質の証「グリーンラベル」獲得!!!

​ちょっと待って、かつて僕を散々泣かせ、イタリア人の講師に国境を超えて「どうやったら美味しく作れるんだよおぉぉ!」と夜中に泣きついたあのプロヴォレッタが、18点!?金賞相当!?

あの夜の涙が、一気に熱い塊になって喉元までせり上がってくる。

​そして、大問題児のモッツァレラは14点。高品質の文字通り「崖っぷちギリギリ」。

結果を見た瞬間、悔しさよりも「やっぱりな、お前そういうとこやぞ!」と愛おしい苦笑いが出た。順位はどうでもいい、僕の立ち位置とクオリティが、ミリ単位の絶対評価としてハッキリ分かったことが何よりの収穫だった。

​今週、僕はこの半年の泥臭いデータを全投入し、「良かったところだけを残し、ダメな部分を冷徹にパージする」という、僕だけのハイブリッドな種の方式を試した。菌たちの機嫌をハッキングする、そぎ落としの作業だ。

​出来上がったモッツァレラに鼻を近づけた瞬間、僕は硬直した。

​香った。それは年始の「桃」ではない。ほのかに甘酸っぱくて、どこか切ない「さくらんぼ!」の香りが、そこに爆誕していたのだ。

菌たちと半年のあいだ殴り合い、抱き合ってきたからこそやっと辿り着いた、新しい奇跡。

​「よし。これなら、またお客さんに喜んでもらえるんじゃないか」

​課題は山積み、伸び代は無限。
僕は今、秘密の最高のおもちゃを見つけた子供のように、ニヤニヤとしたワクワクを胸に秘めている。

世界が認めてくれた!?んだから。2026年後半戦、僕の、そして愛すべき菌たちの逆襲が、ここから始まる。

『15年かけて、僕はシチリアの幻を蒜山で形にした(あとパスタが美味い)』人間、生きていると「あの時のあれ、こういうことやったんか!」と、過去の記憶のピースが突然パチリと噛み合う瞬間がある。そもそも、カチョカバロを蒜山ワインの海にドボンと漬け...
20/06/2026

『15年かけて、僕はシチリアの幻を蒜山で形にした(あとパスタが美味い)』

人間、生きていると「あの時のあれ、こういうことやったんか!」と、過去の記憶のピースが突然パチリと噛み合う瞬間がある。

そもそも、カチョカバロを蒜山ワインの海にドボンと漬けたとき、自分では「完璧なる思いつきや! 天才のひらめき!」とドヤ顔をキメていた。けれど、僕の脳細胞をよーくひっくり返してみたら、大嘘だった。ごめん。ちゃんとかっこいいルーツがあったのだ。

あれは15年前、イタリアはシチリアの市場でのこと。
活気あふれる店先で、地元の赤ワインにどっぷりと浸かって無造作かつ妖艶な姿で売られているカチョカヴァッロを、僕は確かに目撃していた。あの強烈な光景が、蒜山の豊かな自然の中で暮らす僕の脳の引き出しの奥底に、ずっとデッドストックされていたのだ。
「よし、蒜山のミルクとワインで、あの景色を再現してみよう」

そうして始まった試作だった。しかし、世の中そんなに甘くはない。
漬けてしばらく経った頃、期待に胸を膨らませて包丁を入れてみた。

「……あかん、これはちょっと期待薄やな……」

一口食べて、一瞬で真顔になった。
ワインとチーズが口の中で激しく殴り合いをしていて、お世辞にもバランスが良いとは言えない。シチリアの幻は遠い。現実にがっかりした僕は、そのカチョカバロをそっと棚の奥へと押し込み、そのまま綺麗さっぱり忘れることにした。現実逃避、アゲインである。

それから半年。
完全に「放置」という名の現実逃避を経て、意を決して再びそのチーズを取り出した。一切れカットして、口に放り込んでみる。

「……えっ、嘘やん」

美味い。めちゃくちゃ美味いのである。
あの時、口の中でギクシャク揉めていたワインとチーズが、半年の引きこもり期間(熟成)を経て、完璧なハーモニーを奏でる大人の味へと大化けしていた。僕の全細胞がスタンディングオベーションで咽び泣いた。

いや、これ、ぶっちゃけて言うたら、ただの『ほったらかしが生んだ奇跡』である。
効率とかコスパとかいう現代のタイパ至上主義の神様から見れば、「猛烈に手間とコストかけてるチーズを半年放置するなんて、プロとしてどうなの」とガチ説教される案件だ。
タイパ? 知るか、そんなもん。その「圧倒的なタイパの悪さ」の中にしか転がっていない奇跡を見つけるためだけに、僕は自分の人生という限られた時間を、湯水のようにジャブジャブ使ってきたのだ。そう思ったら、なんだか目頭が熱くなってきた。

リビングにいた家族に「これちょっと食べてみて!」と差し出すと、
「あ、なかなか美味しいんじゃない?」
という、これまた絶妙にフラットな、でも確実に胃袋を掴まれたトーンの全肯定。これが何より五臓六腑にしみる。

すっかり調子に乗った僕は、この6ヶ月熟成の戦闘力の高いカチョカバロを使って、家族にパスタを作ることにした。

具材は、今が旬のズッキーニと、庭でワサワサと爆発的に茂っているフレッシュなオレガノ。そしてこのカチョカバロをリングイネに絡める。
パルミジャーノのようなキラキラした華やかさはないけれど、素朴で、それでいて奥底から湧き上がるような旨味と、ほんのりツンとくる辛味がある。狙っていた方向性は、まさにこれだ。

ズッキーニをドライに揚げ焼きにして、オレガノの風味をこれでもかと移したバターでパスタと絡め、そこにチーズをドカンと投入する。
一口食べた瞬間、脳内がバグった。

キノコなんて一文字も入っていないのに、なぜか口の中が「極上のポルチーニクリームパスタ」を食べた時のような、圧倒的な複雑味とコクで満たされたのである。

きっと、半年という時間が、尖っていたワインの酸味をチーズの旨味と完全に溶かし合わせたのだ。それが、油を吸ってとろけたズッキーニの甘みとオレガノの野生味に出会った瞬間、僕の脳が「あれ!? これポルチーニじゃね!?」と盛大な勘違いを起こしたのだ。料理とは、時に恐ろしい魔法である。

今回の件で、僕は完全に味を占めてしまった。
うちのカチョカバロ、今は3ヶ月で出荷しているけれど、これ、絶対にしっかり寝かせまくった方が大化けする。もっとたくさん熟成させた方が、絶対に、圧倒的に、3ヶ月前の自分が作ったチーズを「おい、お前寝ぼけてたんか?」とドツきたくなるほど美味い。

「よし、これからはこの方向性でいこう!」
そう決意した瞬間に、もう一人の冷徹な、電卓を持った僕が「おい待て、それってさらに手間と時間がかかるってことやぞ。在庫スペースどうすんねん。キャッシュフロー死ぬぞ」と耳元でブチ切れてくる。

知っている。経営的には完全にドMの選択だ。
でもなぁ。シチリアの市場で見たあのワクワクを、蒜山のこの場所から、「次は何を企んどるんや」と期待して待ってくれている、愛すべき物好きなお客さんたちに届けたいのだ。あの人たちがニヤリとする顔が見られるなら、もう引き返せない。
職人というのは、つくづく業の深い生き物なのである。

06/06/2026

誰も気づかないかもしれない1ミリの地層のために、僕は今日も命を削って狂気のリコッタを掬う

​先に言っておきます。

今回のチーズ話、たぶん食べても「違いがよくわからん」って言われる確率が9割です。もう身内からも言われてます。10人中9人が「おいしい普通のコッタ」と言うかもしれない。

​だけど聞いてほしい。

僕は今、スケジュールという名の防波堤を自らの手で爆破し、完全に無理やりな製造ラインをねじ込んで、白目を剥きながらある特別なリコッタチーズを作っています。

その名も「リコッタ・ミスタ」。ミスタ、つまり、混ぜちゃったリコッタです。

イタリアと違い日本では​普通、リコッタっていうのは一つのミルクで潔く作るもんなんです。

なのに、うちの工房では今、とんでもないアベンジャーズみたいなことになっています。

​まず、広島の三良坂フロマージュの松原さんが、それはそれは大切に、自然放牧で絞り出してくれた最高に心地よい山羊のミルク。

そこに、蒜山の大自然でのんびり育ったジャージー牛たちの、濃厚で甘やかなミルク。

これだけでも「もう合格! 優勝!」って感じなのに、私はさらに、吉備中央町のノリランカ農園さんちの濃厚な羊のミルクを、本当に、本当に「ほんのちょっとだけ」注ぎ込む。

​もうね、配合のこだわりが細かすぎて、やってる最中は完全に不審な魔術師です。

​なんでそんな面倒なことをするのか。

この3つのミルクが良いブレンドで噛み合ったとき、飲み込んだその喉の奥に、ほんの、ほーーーんの少しだけ、野生っぽい、草っぽいような香りが「……っ!」って残るんです。香りの地層が何層にも重なって、味の底に、底なし沼のような奥行きが生まれる。

​「そんなん、誰も気づかんて」

脳内の合理的な私がそう囁き�

住所

蒜山中福田960-31
Maniwa-shi, Okayama
717-0501

電話番号

0867441255

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