18/11/2024
商店街で考える(77)祖業
つい先日まで真夏日、猛暑日といって、その暑さに対応するだけで一日の体力を消耗していたが、あっという間に薄ら寒さまで感じる気候に移ってしまった。食欲も知識欲も旺盛になる秋はどこに行ったのか。一年を通じて四季を楽しむことは難しくなってきたのか。
秋は愁いの季節でもある。熟思黙想し、自身を取り巻く状況を冷静に把握し、歩むべき道を見極め、いかに行動に移すか、しっかり考える。夢ばかりを追い続け、微熱を高める痴心妄想の春とは違う。そう考えると秋はリアリストの季節である。プチ・プラグマティストを標榜する私にとって居心地のいい季節である。
昔、JREITが上場する前後の時期、商業施設のデューディリジェンス業務に携わったことがある。REIT(不動産投資信託)を構成する投資物件のアセットタイプはJREIT上場時期には取得原価や周辺相場などでおおむね収益性を判断できるオフィスビルやマンションがほとんどであった。不動産という事業環境をいかに活かして運営し収益を上げる商業施設などが対象となることで、事業者(商業者)の営業状況や根拠付ける商業ポテンシャルの状況などの調査分析が必要となり、不動産鑑定士と連携してこうした業務を実施していた。
誰もが知っている地域を代表する隆とした商業施設ばかりでなく、バブル経済に乗って投機に走り商業としての行き場を失った困難な商業施設のデューディリジェンスも数多く行なった。不動産投資家がボロボロの商業施設をヒトヤマいくらで買いたたき、バルク買いした商業施設の中からいくつか再生可能っぽい物件を抽出し収益性物件として見栄えを整えるだけの厚化粧をして他者に売りつけて利ざや(といってもけっこうな利ざや)を稼ぐ。今思えばバブル期の不動産転がしを少し理屈っぽくした仕事の片棒を稼いでいたようだ。
調査分析業務は殊の外面白かった。販売や運営に関わる事業報告書の事業性分析はもとより、店長や部門長、最前線の販売スタッフなどへのヒアリング、売り場の丹念な実査、商圏の数的分析と競合施設の営業状況把握など商業の現場の視点で実務実態調査分析を行なった。調査対象店舗は営業成績が振るわない店舗であるため、妙な噂が広まることを避けて来店客にはヒアリングしていない。悉皆調査、全体調査、総合調査を旨とする私にとって退店客のファクターが欠けるのは一点の陰りとなるが致し方ない。店内での来店客の動作・行動とレジかごの様子から類推した。
商業施設の事業ポテンシャルと事業実態に関して要点を的確に押さえたいいレポートになっていて、経営改善に役立てることができると自負している。しかし提出先は事業者ではなく投資家である。すべてが投資リスクと金融商品化の可能性の観点から取り扱われる。一抹の寂寥感を感じてしまう。
対象商業施設は年間小売販売額が数十億円程度と判断される規模の大きな施設がほとんどであった。店長や部門長にヒアリングするといずれも目標売上は即答するものの、対象商圏やターゲット客層については答えられない。競合が想定される近隣店舗への実査も行なっていない。商業者であればこれら内容は基本情報として把握し分析して販売戦略、販売計画に反映するはずである。
店長が検討していないということは、本社本部からの指示もなく、商業施設開発の段階でも目標売上のみの設定だけで、裏付けとなる店舗開発・運営計画は立案していないのではないか。私が担うデューディリジェンスの対象は経営主体ではなく、あくまで商業施設に対する事業性評価であるから、本部関係者にこうした実態を確認することはなかった。
ここからは私の勝手な臆測であり、確たる裏付けはない。この点ご容赦願いたい。知恵の浅い商店街のオヤジの戯れ言である。
数十億円程度の年間売上高を上げる大型店舗をいくつも展開するGMS事業者などは販売機会を増やすことで事業拡大を進めた。事業拡大は多店舗化と店舗の大型化により実現する。店舗展開に際して自ら土地を取得し建物を建てる不動産投資を伴う方法と、テナントとして建物賃貸借する方法がある。高度経済成長やその勢いが残っている消費拡大時期には競合企業間で競って店舗開発・新規出店を行なうが、賃借する建物が現われるのを待つだけでは出店機会を確保できない。借入を起こして自ら土地を取得し営業に見合う店舗を建築して店舗展開を進める。
借入を起こすには大きな経営判断が必要である。長期に渡り店舗営業を続け、利益をあげて金利を負担し、借入金を適切に返済していかなければならない。小売はその名の通り「小さな販売取引」であり、コツコツと飽きることなく販売を続けて利益を上げることである。地道で地味な業態である。最寄品のシェアが大きいGMS業態は一生懸命「商う」こと自体を喜びとする人たちが大きくした業態である。
ところが土地を買い建物を建てて店舗運営を行なってみると、意外なことに気付かされる。時代は土地神話が謳歌していた。店舗開設のために買った土地の資産価値がいつの間にか上がってしまっている。新たな店舗を開発しようと店舗資産を担保として借入を起こそうとすると、担保価値が上がっているのでとても楽に借り入れることができる。続けて店舗を開発する際も、取得済みの店舗資産が総じて価値が上がっているので、さらに土地を買いやすくなる。貸借対照表上の資産の部はみるみる拡大し、あっという間に大企業になってしまった。
「小売」を「商い」続けて、コツコツと損益計算書上の利益を重ね、企業の成長に努力していたが、土地の地価高騰が早さも大きさも圧倒する規模で企業の成長を押し上げる。
不動産ってめっちゃ儲かるじゃん!
勇気と覚悟を持って土地を取得したが、建物を建てコツコツと商いを続けて利益を上げる前に、土地の含み益で企業規模は急拡大する。販売機会を得る店舗開発・運営のために土地を取得することから、含み益を求めた土地投資のために方便として店舗開発をする。さすがに目標売上ぐらいは設定するがその具体的な販売戦略・販売計画は立案するのは面倒に感じるばかり。企業業態が小売業者から土地投機家に変わってしまった。
バブル経済が崩壊し、バブルに踊った土地価格も急落する。土地を持っているだけですべてがうまく回っていた歯車が軋みだし、逆回転を始める。融資の基軸は不動産担保にあり、不動産価値の下落は、金融業界、ひいては日本経済全体に大打撃を与える。シュリンクした不動産を不動産証券化でなんとか立ち直らせようとした。その重要な救済施策の一つがJREITである。私が商業施設のデューディリジェンスに携わっていたのはこの時期である。
デューディリジェンス分析の対象となるバルク不動産に含まれる大型量販店はGMS業界の覇者として跳梁跋扈していた大手企業が所有していたものが多かった。しかし私が担当する物件の中にイトーヨーカドーとイオンの関連商業施設はなかった。両社はともに建物賃貸借を中心とした店舗開発を行なっており、小売業務に集中する小売業者としての矜持を感じさせる企業である。(これは西暦2000年前後の状態であり、その後GMS業界の状況をアップデートしていない。いずれもショッピングモール業態を持っているので状況は変わっているかも知れない。)
話しは急展開する。
商店街のオヤジになって今月で10年になる。小売業の面白さを楽しむとともに、厳しさ、難しさを痛感している。コロナ禍ではふさわしい営業成績を収められない言い訳ができたが、新型コロナウィルスが5類感染症に移行した昨年春以降も低調に推移している。今夏の猛暑の言い訳も10月にはいると言えなくなり、それどころかいっそう厳しさが増して来ている。本格的な消費不況が到来しているのかも知れない。
私はイトーヨーカドーは小売という仕事を極めようとしている会社だと捉えている。土地バブルにも浮かれることなく小売業を本業として邁進し、集中し、没頭する。かっこいいなー!けれんみのない売り場はもうすこしシャレが効いた方がいいと思うこともあるが、小売業界のリーダーとして目指すべき店舗のあり方を体現している。イトーヨーカドーは私の憧れ、偶像、いや現人神だ。マンマンチャン、アン!(関西人しかわからないかな~ 簡裁の子供が願いや感謝を伝えるとき口にする呪文である)
ところがそのイトーヨーカドーが親会社であるセブン&アイホールディングスのお荷物であり、中間持株法人に移管し投資会社に売却するといった噂があがる。
イトーヨーカドーはセブン&アイホールディングスの「祖業」であるが、大きく時代が変化するなかで祖業に拘り続けることは頑迷固陋、因循姑息の典型のように語られている。私も前例踏襲にこだわり新たな変化を否定し続けることはふさわしくないと考える。
「祖業」は因習ではない。自分たちがどのようなことをどういった人たちに対して行なって、いかにふさわしい社会へと変化させていくか、強い志を「仕事」として具体化したものである。沸き立つ情熱を他者にもわかるように行動に転換し、共感を得て、社会の一部として機能し続ける。祖業は理念、信念、情念、夢といった形而上の概念を具体的な行動様式に還元したものであり、利益を得るためだけのマネープランではない。
祖業を形成する「志」を維持しながら、時代の変化に応じて融通無碍に変革することは大切である。しかし事業について利益を上げるだけの導管体と見なすのであれば、イトーヨーカドーの場合は消費者も、従業員も、おそらく過半の経営者も、株主・投資家以外のほとんどのステークホルダーは心が離れていくだろう。不調に陥った商業施設が不動産証券化を通じて商業機能を再生した事例がないのは当然のことである。
ここに来て、イトーヨーカドーを含む中間持株会社を創業家と商社によりMBOをかける話が出てきた。祖業の理念や夢を引き継ぐ上ではとても好ましいスキームである。ぜひそうあって欲しい。塞いだ気持ちが大いに晴れやかになる。
人生悪いことばかりではない。
弊社は「祖業」といえるほどの事業実績を積んでいない。経営コンセプトは会社設立時に掲げている。『地域ポテンシャルを地域ビジネスに変え豊かな地域の暮らしを実現する』改めて示すとなんとも大言壮語の極であるが、志節堅固に努めたい。
憧れのイトーヨーカドーの復活にあわせて、弊店もがんばるぞ!エイ、エイ、オー!